首相と癒着 テレビによる異常な持ち上げ
会食・懇談が止まらない…
テレビによる異常な安倍政権もちあげ番組が相次いでいます。その中で安倍首相と大手メディア幹部の会食、懇談がとまりません。テレビ関係者は会長、社長に続いてキャスターや番組コメンテーターとして登場する解説委員も加わっています。
首相からごちそういなった通信社解説委員のA氏、さっそく番組の中でほかの出演者に「安倍さんにお会いになったそうで」と水を向けられ満足そうな笑みをうかべました。キャスターのB氏は自分が進行する番組で首相公邸に迎えられたことを得意げに告白しました。
安倍首相と在京テレビ幹部、キャスターなどとの会食・面会
①3月15日 フジテレビ・日枝会長・芝公園のフランス料理店「レストラン・クレッセント」
②3月22日 テレビ朝日・早河社長(他に幻冬舎社長)・首相公邸
③4月4日 ジャーナリスト・田原総一郎氏・首相公邸
④4月5日 日本テレビ・大久保社長・帝国ホテル内宴会場「楠」
⑤5月8日 読売新聞・渡辺会長 日本テレビ・大久保社長(他に長嶋茂雄氏・松井秀喜氏)首相公邸
⑥5月10日 司会者・みのもんた氏・首相公邸
⑦5月10日 ジャーナリスト・田原総一郎氏・首相公邸
会長や社長らトップが会食したテレビ局は、安倍首相の生出演番組を組んで首相の言いたい放題の場を提供しています。
日本テレビの朝の番組「スッキリ!」は、4月に生出演と編集版を2回連続で放送しました。日本テレビは5月に長嶋・松井両氏への国民栄誉賞表彰式も独占生中継して首相の姿をアピールしました。日本テレビを抱える読売新聞会長の渡辺氏、日本テレビ社長の大久保社長も会食メンバーです。
日枝会長が食事をしたフジテレビは夕方の「スーパーニュース」5月10日に首相が生出演、放送時間は46分にも及び首相広報室の”秘蔵映像”なるものを付けました。といっても連休中に外遊した首相がロシアで散歩する様子などを撮った素人映像にすぎないものでした。
小泉劇場を演出した反省はどこに…
2005年、テレビは小泉首相を持ち上げる「小泉劇場」と化し、国民から批判を浴びました。最近はテレビを番組ごと安倍内閣に明け渡して、一緒になって踊るかのようです。NHK、民放をも律する放送法は「政治的公平」「不偏不党」「意見が対立する問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」ことを求めています。この精神を踏みにじるテレビの異様さ。
一方的な主張を無批判に…首相側から出演売込み
安倍首相の民放テレビ生出演が相次ぎます。経緯は「首相ご本人からオファーがあった」(日本テレビ「スッキリ!」)とあからさまです。
朝の情報、ワイド番組や夕方のニュース番組と言う気軽にみられるものを選んで出演していることがわかります。イメージアップを狙い、それと抱き合わせで政策浸透を刷り込もうとする。首相サイドの宣伝戦略が見て取れます。記者が「96条の改定を任期中にやるという決意でよろしいんでしょうか」(フジテレビ「スーパーニュース」)と、あおる発言まで飛び出し、テレビが安倍政権の拡声器ともなっています。
一方、最近のNHKの場合は「ニュース7」で首相の動向、演説、発言をそのまま流し「ニュースウオッチ9」で、更に詳しく説明を加えるパターンとなっています。
7月の参議院選を控えて、経済、暮らし、雇用、原発、憲法と大きな選択を前にジャーナリズムとしてのテレビの役割が問われます。
かつてない危機的状況テレビジャーナリズム
元NHKディレクター 戸崎賢二さん
報道機関としてのテレビは戦後かつてない危機的状況にはいったのではないか。最近、安倍首相の生出演の例をこれだけ見せられるとそう思わずにはいられない。
一概に首相のテレビ出演がいけない、というわけではない。しかしスタジオに呼ぶ場合、権力者に対する距離と批判的精神が絶対に必要である。
記憶に残る放送がある。筑紫哲也がTBS「NEWS23」で2007年に当時の福田首相に厳しく迫ったインタビューだ。「消えた年金問題」の自民党の方針を、筑紫は「お言葉ですが」と切り返し「ウソっぽい公約」と批判した。福田首相は憮然とし、メーク落としも拒否して帰ったという。今年1月、TBSで放送された筑紫を振り返るドキュメンタリーで、福田元首相はこのときの筑紫の態度を回顧して「ジャーナリストの矜持でしょう。権力に取り込まれたジャーナリズムなどみていられないじゃないですか」と述べた。最近の一連の首相登場番組は「権力側」でさえ言えるこうした批判に耐えられそうもない。
安倍首相がスタジオにきてくれた、と大はしゃぎの日本テレビ「スッキリ!」は論外として、フジの「スーパーニュース」も自民党の政策が何の反論もなくストレートに宣伝され、安倍首相の「人柄の良さ」が印象つけられる放送となっていた。
今回の首相のテレビ連続出演は、官邸側の系統的な工作による疑いがある。2007年の参議院選前にも、安倍首相のテレビ出演が連続したが、これは官邸サイドから各テレビ局への強い働きかけによるものだったと、同年7月23日号のAERA誌が暴露している。
繰り返し言われることだが、ジャーナリズムに期待されるのは「権力に対するウオッチドッグ(権力を見張る監視人)」の役割である。
報道に携わるものとして、当然のこの常識、教養が首相出演を安易に受け入れる現場はもはや死語となり、自覚さえないと見えるところに、現在のテレビの危機の深さを見る思いがする。
2013・5・21 しんぶん赤旗記事より作成